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「深く眠れていますか?」疲労・脳の老化・認知症リスクを左右する、眠りの新常識

健康 May 22, 2026

「よく眠ったはずなのに、なぜか疲れが残る」その理由、知っていますか?

「8時間は寝ているのに、朝スッキリしない」
「日中なんとなくだるい」
「昼過ぎになると急に眠くなる」
こうした訴えを持つ中高年の方は、じつは非常に多くいます。

よく「歳をとれば眠りが浅くなるのは仕方ない」と言われます。
しかし、それは半分しか正しくありません。
眠りが変化するのは確かですが、「なぜ変化するのか」「何が体に起きているのか」を知ることで、対策の取り方はまったく変わってきます。

今回は、「なんとなく疲れが取れない」という慢性的な疲労感の正体を、睡眠の科学から読み解きます。
そして中高年層の方々が深い眠りを取り戻すために、今日から実践できる習慣をご紹介します。


「疲れが取れない」の正体は、睡眠の"量"より"質"の問題だった


「深い睡眠」が激減している

私たちの眠りには段階があります。なかでも最も深い眠りを「徐波睡眠(N3)」といい、この段階こそが疲労回復・細胞の修復・免疫機能の維持に中心的な役割を果たしています。

問題は、この「深い眠り」が加齢とともに大幅に減少するという点です。
睡眠と加齢に関する研究(Mander BA et al., Neuron, 2017)によれば、深い眠りは若い頃に比べて中高年以降に顕著に減少し、60歳以降にその減少が加速することが報告されています。さらに、2023年に JAMA Neurology に掲載されたフラミンガム心臓研究(Himali, Pase et al.)では、60歳以上の346名を平均17年間追跡した結果、徐波睡眠が年間1%減少するごとに、認知症の発症リスクが27%上昇する可能性が示されました(ハザード比1.27、95%CI:1.06〜1.54)。

つまり、「寝た時間」は同じでも、回復に本当に必要な「深い眠りの時間」が大きく失われているために、翌朝も疲れが抜けきらない——これが「なんとなく疲れが取れない」の正体なのです。


成長ホルモンは「最初の深いノンレム睡眠」に集中している

成長ホルモンというと「子どもの背丈を伸ばすもの」というイメージがあるかもしれませんが、中高年にとっても筋肉・骨・内臓の修復、代謝の維持に欠かせない重要なホルモンです。この成長ホルモンは、入眠後に最初に訪れる深いノンレム睡眠のタイミングで集中的に分泌されることが知られています(Van Cauter et al.、日本医事新報社ほか)。

個人差はありますが、多くの場合この深い眠りは入眠後おおよそ90分以内に訪れ、いかにこの眠りを深くできるかが、体の修復力を大きく左右します。
眠りが浅いと、この重要な分泌のピークが十分に機能しなくなる。だから、ただ「長く横になっていても」疲れは取れないのです。


【新常識】脳には「夜間の掃除システム」がある——深い睡眠がなければ動かない


睡眠中に脳は"洗われている"

近年の脳科学研究が明らかにした、非常に重要な発見があります。
それが「グリンパティックシステム」です。

私たちが深く眠っている間、脳の細胞が縮小し、脳脊髄液が脳内を流れて老廃物を洗い流す仕組みが活発に働くことが研究で示されています。
このとき排除されるのが、アルツハイマー型認知症の原因物質として知られる「アミロイドβ(ベータ)」などの有害タンパク質です(Lulu Xie et al., Science, 2013 ほか。なお、この研究はマウスを対象とした実験に基づくものです)。

そしてこのシステムが最も活発になるのは、深いノンレム睡眠のときです。
加齢によって深い眠りが減少すると、この脳の「夜間清掃機能」も低下し、老廃物が蓄積しやすくなることが研究で示されています(日本神経学会専門医・指導医サイト ほか)。

「疲れが取れない」だけでなく、「頭がぼんやりする」「物忘れが増えた気がする」という感覚がある中高年の方は、この脳内の清掃機能が十分に働いていないサインである可能性があります。
これは単なる「年齢のせい」ではなく、睡眠の質によって改善の余地がある問題です。


では、なぜ中高年は深く眠れなくなるのか


体内時計とメラトニンの変化

加齢にともない、体内時計のリズムは徐々に「前倒し」になります。眠くなる時間が早まる一方で、朝も早く目覚めやすくなり、深夜〜早朝に目が覚めやすくなります。また、夜の眠りを誘う「メラトニン」の分泌量も、年齢とともに昼夜の差(振幅)が小さくなることが報告されており、「眠れる時間帯のシグナル」が弱まります(Hood S, et al., J Clin Invest, 2017)。

さらに、スマートフォンやテレビなどの画面から発せられる光(とくに室内の強い照明)は、夜間のメラトニン分泌を抑制します。中高年になってもスマホを夜遅くまで見続ける習慣があると、ただでさえ弱まっているメラトニンのはたらきをさらに妨げてしまいます。

眠りが途切れやすくなる脳の変化

脳の中で睡眠を安定的に維持する役割を担う「腹外側視索前野(VLPO)」の神経細胞が、加齢により変化することも知られています。これにより、夜中に何度も目が覚めやすくなり、眠りが細切れになることで、深い眠りに到達しにくい状態になります(Lim ASP, et al., Brain, 2014)。


今日からできる「深い睡眠を取り戻す」4つの習慣

難しいことは必要ありません。
科学的な根拠をもとに、日常生活に取り入れやすいものを4つご紹介します。

① 就寝1〜2時間前(目安として90分前)の入浴で「体温のスイッチ」を入れる
深い眠りに入るためには、体の深部体温が下がることが必要です。40〜42度のお湯に10分以上浸かると深部体温が上昇し、入浴後1〜1.5時間かけて体温が下がるにつれて自然な眠気が訪れます。この「体温の上げ・下げ」が深い眠りへの入口となります(Haghayegh et al., Sleep Medicine Reviews, 2019のシステマティックレビュー&メタ分析ほか)。論文上は「就寝1〜2時間前」が推奨範囲で、実用的な目安として「90分前」という表現が広く使われています。まずは就寝の1〜2時間前を目安に入浴を済ませることから始めてみましょう。

② 朝、起きたらまず「日光を浴びる」
起床後、できるだけ早い時間(目安として30〜60分以内)に屋外の自然光を浴びると、体内時計がリセットされ、個人差はありますが概ね14〜16時間後を目安に自然な眠気が訪れるリズムが整いやすくなります(国立精神・神経医療研究センター資料ほか)。これはメラトニンの分泌タイミングを整える、もっとも手軽で効果的な方法の一つです。窓越しでは光の量が減少するため、できれば外に出るか、窓を開けて直接光を取り込むことをお勧めします。

③ 就寝1〜2時間前からは「照明を落とす」
夜の強い室内照明やスマートフォンの画面の光は、メラトニンの分泌を抑制します。天井の蛍光灯のような強い照明(150〜200ルクス以上)は、スマートフォン画面よりも影響が大きいとされています。就寝1〜2時間前からは、間接照明や暖色系の弱い光に切り替え、脳に「もうすぐ夜だ」と伝える環境をつくりましょう。

④ 毎日同じ時間に起きる「起床時刻の固定」
就寝時刻を揃えることよりも、毎朝同じ時間に起きることの方が体内時計を整える効果が高いとされています(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)。週末の「寝だめ」は体内時計を乱しやすく、月曜日の疲れを重くする原因になります。休日も平日と同じ時刻(±1時間以内)に起きる習慣を心がけることが、深い睡眠の質を底上げする基本です。


まとめ

「なんとなく疲れが取れない」のは、単に「歳のせい」でも「怠け」でもありません。中高年の体では、深い眠りを支える仕組みが少しずつ変化しており、その結果として睡眠の質が落ちていることが背景にあります。そしてその深い眠りこそが、成長ホルモンによる体の修復と、グリンパティックシステムによる脳の清掃を担っているのです。
眠れていないのではなく、「深く眠れていない」——この違いを知ることが、疲れを取り戻す第一歩です。
まずは「起床時刻を固定する」「朝の日光浴」「就寝1〜2時間前の入浴」のどれか一つから始めてみてください。小さな習慣の積み重ねが、質の良い眠りへとつながっていきます。

【注意事項】
本記事は、一般的な健康情報の提供を目的として作成したものであり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。また、医療行為や医学的アドバイスに代わるものでもございません。
記事内でご紹介している内容は、公表されている研究や公的機関の資料をもとにしていますが、すべての方に同じ効果があることを保証するものではありません。睡眠の悩みや体の不調が続く場合は、自己判断せず、必ず医師や専門の医療機関にご相談ください。
とくに、睡眠時無呼吸症候群・不眠症などの睡眠障害、うつ病などの精神疾患、その他の持病・服薬中の方は、生活習慣の変更前に主治医へご確認いただくことをお勧めします。
本記事の情報は執筆時点(2026年5月)のものです。医学・健康に関する情報は日々更新されますので、最新の情報については医療機関や公的機関の資料をご参照ください。


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