お金が増える人・減る人の分岐点 ─ 成功する投資家が「損への恐怖」を味方に変えた思考のしくみ
May 18, 2026
あなたも感じている「投資へ踏み出せない理由」
「投資を始めようと思っているけれど、なんとなく怖くて……」
「少し値が下がっただけで、すぐ売ってしまった」
このような経験や感覚を持つ方は、中高年層を中心にとても多くいらっしゃいます。
実は、この「怖さ」や「踏み出せない感覚」には、きちんとした心理学的な理由があります。
それが今回のテーマ、「損失回避バイアス」です。
三井住友信託銀行の「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」が2025年1月に全国の18歳〜69歳(関連業種従事者を除く)の1万人超を対象に実施したアンケート調査によれば、お金に関する不安の第1位は、年代を問わず「老後資金」でした。しかも同様の傾向は過去6回の調査を通じて一貫して確認されています。
老後の生活費がどのくらいかかるのかわからない、年金だけでは足りないかもしれない──そうした漠然とした不安が、投資への一歩をより重くしているのかもしれません。
このブログでは、その「怖さ」の正体を行動経済学の視点から解き明かし、成功する投資家がどのようにこの感情と向き合ってきたかをご紹介します。
「損の痛み」は「得の喜び」より大きい ─ 行動経済学が明らかにした人間の本能
行動経済学の世界に「プロスペクト理論」という理論があります。
心理学者のダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏によって1979年に提唱され、カーネマン氏はこの研究をはじめとする業績により、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました(※トベルスキー氏は1996年に死去しており、ノーベル賞は存命者のみに授与されるため、受賞はカーネマン氏のみです)。また、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー氏は、プロスペクト理論の核心にある「損失回避性」を、行動経済学で最も重要な概念のひとつとして位置づけています。
プロスペクト理論の中心にある概念が「損失回避性」です。
これは、人は同じ金額であっても、得をしたときの喜びより、損をしたときの痛みをより大きく感じる傾向があることを示したものです。研究では「おおむね2倍以上の大きさで損失を感じる傾向がある」と広く言われており、「損失の痛みは利得の喜びの約2倍以上」という表現で知られています(なお、実験での推定値には個人差があり、研究によって異なる値も報告されています)。
わかりやすく例えるなら、1万円を拾ったときの嬉しさと、1万円を落としたときの悲しさは、金額は同じでも失う痛みのほうが、得る喜びよりも悲しさの方がはるかに強く感じられるのです。このように心の受け取り方がまったく違うのです。
これは個人の性格の問題ではなく、人間に本能的に備わった心理的特性です。
投資初心者が陥る「損失回避バイアス」の3つのパターン
この損失回避バイアスは、特に投資初心者に多く見られる3つの行動パターンを生み出します。
① そもそも始められない
「損したらどうしよう」という恐怖が先に立ち、少額から試してみることすらできない状態です。
老後資金という大切なお金を守りたいという気持ちが強いほど、この傾向は強まります。中高年層がこのパターンに陥りやすいのは、まさに「守るべきものが多い」という状況から来ています。
② 少し下がっただけで売ってしまう
せっかく投資を始めても、保有している資産が少し値下がりすると「これ以上損したくない」という感情が働き、すぐに売却してしまいます。その後、価格が回復・上昇しても、すでに手放した後です。利益は小さく、損失だけが確定するという悪循環を招きます。
③ 損が出ているのに売れない(損切りできない)
逆に、大きな損失が出ているにもかかわらず「売ったら損が確定してしまう」という心理から、売るに売れず保有し続けるケースです。「いつか戻るはず」という希望にしがみつき、損失がさらに膨らんでしまうことがあります。これも損失回避バイアスが原因の典型的なパターンです。![]()
成功する投資家が持つ「思考の切り替え方」
では、成功する投資家はどのようにこの感情と向き合っているのでしょうか。
重要なのは、バイアスを「消す」ことではなく、バイアスの存在を知ったうえで、意識的に行動を選ぶことです。
◆「今の損」ではなく「長期の結果」で考える
短期的な価格の上下に一喜一憂せず、5年・10年・20年という長期的な時間軸で資産形成を考えることが基本です。
過去のデータを見ると、長期にわたって分散した投資は、短期的な下落局面を乗り越えてきた実績があります(ただし、過去の実績は将来の成果を保証するものではありません)。
「今日の損」ではなく、「長期的な資産全体の変化」を見る習慣が、損失回避バイアスの影響を和らげる助けになります。
◆「投資しないリスク」を正しく認識する
成功する投資家はよく「投資しないことも一つのリスクだ」と言います。物価が上昇する局面では、現金のままでは実質的な購買力が目減りしていく可能性があります。損失回避バイアスによって「何もしない」を選ぶことが、結果として資産価値の目減りにつながるリスクを見落とすことにもなりかねません。
「行動しないことにもリスクがある」という視点を持つことが大切です。
◆ ルールを先に決め、感情で動かない仕組みをつくる
「月1万円を積立投資する」「あらかじめ決めた水準まで下がったら見直しを検討する」など、事前にルールを決めておくことが有効です。感情がどう動こうとも、あらかじめ決めたルールに従って行動することで、バイアスに振り回されることを防げます。少額から自動的に積み立てる仕組みは、この「感情を排除する仕組み」として、中高年層にも取り入れやすい方法のひとつです。
◆ 小さく始めて「価格変動の感覚」を身につける
最初から大きな金額で投資する必要はありません。「この金額なら多少の値動きがあっても冷静でいられる」という金額からスタートすることで、損失回避バイアスからくる過剰な恐怖を実体験として学び、少しずつ感情的な反応を和らげていくことができます。
「怖い」という感情は、あなたがまじめな証拠
損失回避バイアスを感じることは、決して弱さではありません。むしろ、老後の生活を真剣に考え、大切なお金を守ろうとしている証でもあります。
大切なのは、「怖い」という感情を否定するのではなく、その正体を知ることです。「この怖さは、人間に本能的に備わったバイアスが原因なのだ」と理解するだけで、冷静に次の一歩を踏み出しやすくなります。
成功する投資家も、最初から感情をコントロールできていたわけではありません。学び、経験を積み、少しずつ自分なりのルールと判断軸を身につけていった方がほとんどです。
老後のお金への不安を、行動する力に変えていく第一歩──それがこの「損失回避バイアス」を知ることから始まります。
まとめ
・人間は「得の喜び」より「損の痛み」をより強く感じる傾向がある(プロスペクト理論)
・この損失回避バイアスが、「始められない」「すぐ売る」「損切りできない」という投資失敗の根本原因になりやすい
・成功する投資家は、バイアスを「消す」のではなく「知ったうえで仕組みで対処する」
・「投資しないこと」にもリスクがあることを正しく認識し、長期・分散・積立という基本を大切にする
・小さく始めて経験を積むことが、感情との上手な付き合い方への近道
【注意事項】
本記事は、投資や資産形成に関する一般的な情報提供および教育を目的として作成されたものです。特定の金融商品・投資手法の購入・売却を勧誘・推奨するものではありません。
投資には価格変動リスク等のリスクが伴い、投資元本が保証されるものではなく、損失が生じる可能性があります。過去の実績・データは将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。実際の投資判断は、ご自身の責任において行ってください。
本記事に記載されている情報は、執筆時点において信頼できると判断した情報をもとにしていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、掲載された情報・内容は予告なく変更される場合があります。
金融商品への投資をご検討の際は、金融機関や証券会社が交付する目論見書・契約締結前交付書面等を必ずお読みいただき、内容をご理解のうえ、ご自身の判断と責任において投資を行うようにしてください。必要に応じて、ファイナンシャルプランナーや税理士など専門家へのご相談をお勧めします。
本記事の内容は、金融商品取引法に基づく投資助言・投資一任契約を意味するものではありません。
<投資シリーズ 前回の記事>
卵を一つのカゴに盛るな!分散投資の考え方〜ポートフォリオの基本〜
https://link-113a.mykajabi.com/blog/2-2ab1b
<あわせて読みたい関連記事>
成功者の共通点 — 資産1億円達成者が実践している「お金が増える」5つの行動
https://link-113a.mykajabi.com/blog/1-5
投資目標の立て方 ─ 老後に必要な金額を逆算する
https://link-113a.mykajabi.com/blog/6